宇宙をかき乱したりしなかったり

 NASAが宇宙服を新調したりする昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 選定業者からしてやはり宇宙服は潜水服に近い所がある装備なんですな。

 ちょっと見たらJAXAも宇宙服を開発しようかなとか言ってるし。アメリカ、ロシア、中国、インドに続いて先日欧州も有人飛行をやると言い出したし、日本もやるんですかね。
 有人飛行は各国の宇宙局にとって最重要のミッションであるということは論を待たないのですが、これには実に政治的な意味もある。一度有人をやればそこから撤退する事は大きな決断になり、つまり恒常的に予算がたっぷりもらえるという寸法です。それにペイロードがでかいロケットを開発する理由にもなる。いい事だ。
 来年のH-IIBとHTVが楽しみだが、HTVを有人型にしたらH-IIBの安全性で充分なのかな。

 有人の欠点は、人間を宇宙へ送ること自体が技術の目的で、そこから派生する経済的利益はあまり望めないということですかね。道路とか放射光とかはなんだかんだ言ってもある程度は開発運用予算以外の経済的な増倍を生むけど、有人は…。月資源を採掘できます、とかあるといいのに。ないけど。
 消極的な理由としては、一度技術の更新を放棄すると、再活性化するのに膨大な予算と時間が必要、といった所だろうか。だから毎年予算を下さい、という。それもSpaceX社とかの民間業者が有人を含むフルラインナップをそろえてきたらどうなるのだろうか。財務の人は防衛以外あっちでやってね、とか言うのかしら。
 ではここでヘリウム3採取計画の採算についてざっと考えてみよう。1g当たりのD-3Heで出てくる熱量はおよそ原油8t分、電力炭11.5t分だ。電力炭はtあたり100ドルとか130ドルとかだから、石炭火力とD-3He核融合発電の建設費、運用経費等を簡単の為に同等と考えて燃料代だけで言うなら3Heは1g1000ドル〜1500ドルに収まる必要がある。石炭は有限じゃん、という意見もあろうが、その頃には太陽光発電による電力価格が現在の石炭火力並み、あるいは石炭価格の高騰により相対的に下回っていることは充分ありうるのでよしとする。
 t当たり1000億円か。もう少し考えると、AresVの月周回軌道へのペイロードが65tで、コストがサターンV並みとすると4000億、シャトル1基分とすると、まあ2000億円くらい?
 ということはサンプルリターンだけなら今日の技術でも充分ペイする。問題は3Heを1t得るために10万tの砂を処理する設備が何tに収まるかということである。電気炉+発電システム、ないし太陽炉と、無人ドーザーと、ヘリウム液化機と、タンクと…初期には年1t取るとして、1日2700t処理する訳で、1時間112t、レゴリスの比重を2.0として容積56kLの電気炉って…100tくらいかしら。おや意外といけそう。何時間加熱したらHeが取れるのか知らないけど、熱源が確保できるならAresVが10〜20基で収まるかもしれない。するとプロジェクト費用の概算が2兆〜8兆円だ。
 …重水がg当たり1ドルとかのはずだから、D-Dの実現に予算かける方がいいんじゃないのかこれは。

 結論として原子力ロケットや軌道エレベータ、再使用型輸送システム等を前提とせずとも3Heの採取は採算的にも一応可能。しかし競争性は怪しいため、地球上での発電用としては月面ないし木星からの3He採取によるD-3He炉は微妙。そもそも核融合発電では建設費が支配的なんだから、燃料費とか考えても無駄、とか言うとどうしようもない。地道に輸送システムを安価にしていく方が建設的なようだ。今日では地球低軌道に1kg当たり3000〜8000ドルだから、これがどうすると安価にしていけるかだが、軽量化にも限界があるだろうしパルスデトネーションみたいな新型エンジンが必要なのかな。月面でマラソンしたり戦争したりする日はいつごろだろうか。2025年前後ですかね。