御国を護れ

 別に体を鍛えろという訳ではない。昨今の金融危機をだらっと眺めていれば、やれVIXが無茶苦茶な数字に、やれアイスランドの高金利商売がふっ飛んだ、やれウクライナCDSスプレッドがベネズエラ越えに、やれパキスタンが死にそうでアフガン周辺の経済状態が超きな臭く、やれ中国が高率のインフレに、やれスイスがやべえ、やれロシアとトルコとハンガリーとブラジルと韓国とメキシコがまとめて駄目などと、今日の金融の前に国家というシステムがいかに脆弱であるか今更ながら思い至る。工業化の果実を得ていながら、なおかつ平穏に生きるなどというのは今日の社会では贅沢な望みだということだろうか。まあ、先進国に住んでる分にはまだいい。日本なんかまだ大分傷が浅い方だろうし。もしかすると日経平均が回復したなら一番浅い方かもしらん。だが、この状況で、途上国と最貧国にとってはいかなる戦略が適切なのだろう。おとなしく投資を呼び込むことが工業化には最短なのだろうが。
 いや、私の主な関心がどこかというと、日本が戦後からここずっとやってきた二番手戦略がいつまで上手く行くのかということだ。二番手が一番手に従順に着いて行くと一度決断したならば、これを三番手以降が崩すことはかなり難しい。二番手は策を弄することを放棄し、一番手になるという可能性、もっと得られたかもしれない利益を諦念することによって、不安定性を回避するという結果を手にしたのだ。それが直ちに間違ったことだとは思わない。二番手戦略はある意味贅沢な選択だ。充分な国の規模があり、二番手でも喰うのに困らず、二番手で居続け、一番手に食い尽くされないという自信があるということだ。実際はどうだかまだ分からないし、最近は怪しいものだけれど。
 考えてみよう。アメリカが覇権を失う日が中期的に来るだろうか。経済規模から見てそれは怪しかろう。EUもこの分だと取って代われそうにはない。多分先に日本が駄目になる可能性の方がよりありうる。では日本が二番手から転落する日はいつか。ドイツやフランスが二番手戦略をとることはありうるか? ありえなくはない。が、あまりありそうでもない。EUでごたごたやっていたほうがましだと考えるだろうから、当分日本の代替にはならない。イギリスは? 既にアメリカと結合している。金融力で言えばイギリスの方が二番手だった。もうすぐどうなるか分からんが。中国は? 例えば民主化中国が分裂しなかったとき、日本に代わって東アジアを担当しようと持ちかけるかもしれない。それは日本にとって要注意だ。まあ核保有国である以上どうかなとは思うが。ここにおいて核戦略を構築しないという日本とドイツが採った二番手における選択の逆説的な優位性がある。愚かにも日本が自ら二番手戦略を止めたら? その結果は自国で引き受けるしかない。核武装と、軍事費の増大と、金融国家化と、それにともなう様々な対決を戦わねばならなくなるだろう。妙な話だが中国の民主化こそが日本にとって危惧すべき状況をもたらす。まあ失敗すると思うが、気を配っておくに越したことはない。インド? インドは先に述べたように、エネルギー的な観点から見て発展が難しいはずだ。そうすぐには来ない。
 では、パクス・ブリタニカからこの方、金融力こそが覇権の第一条件だが、最早地球上で金融が必要とされなくなるとしたらどうか。
 …その日には五大陸全てが工業化されており地域内はともかく地域間の格差が相当減少しているはずだが、相当先の話しだし、月や軌道上へ投資が流れ込むはずなので、当分考えなくてもよいだろう。